「がん総合相談センター」の役割


月刊がん『もっといい日』(2002年1月号)

がん患者の方々の多くは、自分の病気や治療方法、今後の生活などについて大きな不安や心配を抱いています。担当医に相談したくとも、「聞きにくい」「納得した答えが得られない」など、疑問や悩みが解消されないことも多いようです。そうした患者さんやご家族のために、昨年(2001年)8月、東京・銀座に開設したのが「がん総合相談センター」です。所長の松江寛人氏にお話をうかがいました。

行き場を失った患者たち

松江所長は39年間、国立がんセンターに勤務。放射線の専門医として、さまざまながんの患者さんと接してきました。がん医療の最前線で感じていたのは、患者さんが抱える悩みの大きさと、それに対応しきれていない医療現場の現実です。
患者さんは、自分の病気そのものに対する心配はもちろんのこと、医師が下す診断や治療方針に対して、「これでいいのか」と、絶えず不安を感じ、悩んでいます。その背景として、医師と患者さんとのコミュニケーション不足が大きいと松江所長は指摘します。
「つまり、患者さんに理解、納得してもらえるような説明が充分になされていないんですね。その昔は がん を告知しないために、説明もできないということがありました。しかし今は、医師は がん であることを告げたうえで、その進行程度、治療法などを患者さんに伝えます。
ところが、その説明の仕方が患者さん一人ひとりの立場に立ったものではないのです。たとえば、医師は患者さんに『あなたのがんはこのくらいの進行度です。過去の症例データによれば3年生存率はこのくらい、5年生存率となるとこのくらいです』と告げますが、患者さんはそれだけで相当ショックです。そのうえで、『この治療法をやります」と言われれば、患者さんは『わかりました』と医師に従わざるを得ない。疑問があっても、何を聞けばいいのかわからない。もっと説明を求めたくとも、それができない雰囲気がある。結局、医師の話を一方的に聞くだけで、悩みを相談する場もなく、不安だけが増大するのです」
医師が患者さんに充分な説明をできない理由として、「忙しい」「時間がない」ことが挙げられます。これはひとりの患者さんに多くの時間を割くことができない現行の日本の医療制度や病院のシステムにも問題があるでしょう。いずれにしても、患者さんの不安がひいては医師や病院への不満、不信へと発展することも少なくありません。形ばかりの説明と、患者不参加のもとで進められる治療方針の決定は、患者さんが後々まで引きずる悔いにもつながります。
最近では、病院などの医療施設内に、患者さんやそのご家族のための相談機関を設けるところも増えています。
「ただ、内部で対応しようとすると、患者さんにとってよりよい解決策を見いだそうとするというより、どうしても病院側の立場から、患者さんを説得するような形にならざるを得ません。患者さんの苦しみを真に理解し、また、『診断は正しいのだろうか』『今、勧められている治療法は適切なのだろうか』など、セカンド・オピニオンを求める患者さんに適切なアドバイスをする相談機関が、外部に必要だと考えました」(松江所長)
そうした思いが、「がん総合相談センター」の開設へと至ったのです。

患者自身が選択できる道筋づくりを

開設から5ヵ月。これまで200人以上の がん の悩みを抱えた患者さんが、松江所長のもとを訪れました。がんの種類は多種多様で、8割以上が、すでに手術をしたり、化学療法などの治療経験がある人たちです。相談を受けるなかで、医師の説明不足のため、自分の病状について充分に理解していないまま治療が行われていることに不信や不満を抱いている患者さんや、いくつかの治療法を挙げてどれか選びなさいと言われて困っている患者さんが多いことに改めて驚いた——と、松江所長は語ります。
「ここにいらっしゃる方々の7割の方が、自分の病歴、治療経過、検査数値の結果データなどを細かくメモしていらっしゃいます。にもかかわらず、自分の病状、なぜその治療法が必要なのか本当のところはわかっていない。共通して言えることは、がん という不安のなかで、どう考えていいかわからず、堂々めぐりの悪循環のサークルに入り込み、抜け出せないでいることです。私の役割は、一人ひとりの相談者が抱える悩み、問題を聞いた上で、自分の持ち得る知識を提供し、患者さんがどう考えればいいかの道筋をつけ、最終的には、そこから結論を見いだせるようにしてさしあげることだと思っています」
このとき役立つのが がん の専門医としての長年の経験です。がん においては放射線診断や治療の領域は、すべての臓器にかかわります。松江所長は39年間、あらゆる種類の がん に接し、画像診断での体系化も試みてきました。そうして培ってきた豊富な知識・経験が「がんに対する相談全般」と銘打つように、すべてのがん患者さんに対応できる裏付けとなっています。

納得のいく説明を心がけて

相談では、1回の面接に約1時間をかけ、じっくり話を聞きながら説明します。患者さんには病歴、治療歴のほか、検査結果の資料なども持参してもらいますが、なければ担当医がそのときどのように説明したか、こと細かく聞き出しながら状況を判断。ちなみに、かかっている病院の資料を持参する人は1割にも満たず、これは担当医に内緒で相談に来ている人がほとんどのためでしょう。
そうして現在の状況を把握したうえで、今後どうしたらいいか方針を立て、それに沿った具体的なアドバイスを行うのです。担当医に何をどう聞けばいいか、質問の仕方を説明する場合もあります。
「すでに手術が終わったり、化学療法を始めている場合には、患者さんの状況を実際に診て把握している点から言っても、できれば主治医や病院は変えないほうがいい。医師に不満を持っている場合には、その付き合い方までアドバイスします」(松江所長)
現在、相談内容で特に多いのは、化学療法に関すること。「抗がん剤治療を一時中止すると言われた。がんが進行しないか」「手術を受けて退院したのに、抗がん剤の投与が必要と言われた。副作用を覚悟してまで服用すべきか」などなど。「こうした相談が多いのは、化学療法に対する正しい理解が得られていないからです。
いわゆる三大療法のうち、がんを体の中からほとんど完全に取り去ることが期待できるのは手術以外になく、今の化学療法で転移・再発したがんを完全に治すことはできません。今の体の状態にどう効くか、どう役立つかという観点から考えるべきで、副作用がひどいなら、いったん中止してダメージを受けた体を回復させることも必要です。
治療に伴うリスクや限界を知ることはとても重要で、化学療法に対する過大な期待も、逆に強い拒否反応も、患者さん自身のためによくありません。そういうことも含めて、ここでは患者さんの納得のいく説明を心がけています」と松江所長。
患者さんは、がんになったことで精神的にも大きなダメージを受けており、「当人にどう接すればいいか」という家族や周囲の人からの相談もあります。そうしたことも踏まえ、将来的にはセラピストとの連携や、患者さんやその家族同士が情報交換できるネットワークづくりなど、あらゆる角度から、がんにかかわる悩みに対応できるようにすることが、松江所長の目標です。

(取材・文=福永妙子)

ページTOPへ 雑誌等掲載記事一覧へ