患者側に立った相談所


読売新聞『医療ルネッサンス』(2001年9月27日付)

抗がん剤を拒否

大腸がんの肝臓転移を手術で取り除いた後で、背骨への転移が見つかった。東京都内のA子さん(65)は、放射線と化学療法を提案されたが、抗がん剤治療は断った。
医学的な理由と言うよりも、身近な経験からだった。がんに倒れた友人6人のうち、抗がん剤治療を受けた5人は3年もたなかった。「なんの医学的な根拠もない」と主治医からなじられたが決心は揺るがない。放射線治療だけを受け、主治医との気まずさが残った。そんな時に、「がん総合相談センター」(東京・銀座)という名前を雑誌の記事で見かけた。国立がんセンターを7月に退職した放射線科の医師、松江寛人さん(65)が先月開設したセカンドオピニオン(第二の意見)専門の相談所だ。
相談を申し込み、経過を語ると、「大腸がんでは、効果が確実な抗がん剤はありません。だから、化学療法を受けないことも十分に納得のいく選択です」と松江さんに言われた。専門の医師が、自分に賛意を示してくれたことで、揺れていた気持ちが落ち着いた。
そして胸につかえていた質問を次々にぶつけた。「血液検査の頻度が3か月に一度では少なくないか」「独り身なので、もし先が短いのであれば、余命の目安を告げて欲しい」……。

A子さんは「主治医は忙しくて質問してもはぐらかされる感じです。しかも2、3分で終わり。ここではゆっくりお話ができました」と言う。
松江さんは同センターで39年間、消化器がんや乳がんを中心に、エックス線や超音波での診断、化学療法などを行ってきた。
「がんは、診断や治療方針に医師によるばらつきが大きい。納得して治療を受けるには、複数の専門家に意見を聞くべきだと思っていた」と言う。

説明30分は必要

セカンドオピニオンとなれば、患者が納得できるよう30分程度の時間は欲しいが、それだけの時間を取るのは難しい。そこで「患者と医師のすき間を患者側に立った相談という形で補いたい」と、松江さんは相談所という形を思いついた。
セカンドオピニオンだけではなく、主治医との不十分なコミュニケーションを補うような場面も少なくない。「親身になった説明が医療の現場に欠けています」と松江さん。
セカンドオピニオンを希望する患者の診察を、外来担当日の順番の最後に設定して、長い時間を取る工夫をしている医師もいる。が、本来は、専門の相談所や医師の特別な配慮ではなく、十分な説明が病院で当たり前に受けられるようになることが望まれる。
そのためには、〈丁寧な説明と患者の納得は治療の一部〉という基本的な理解を日本の医療文化に根付かせる必要がある。

(文=渡辺勝敏)

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